12-16-2010

 

数年前、じゅうたんの張替えの見積もりをしてもらうために、専門家に自宅に来ていただいたことがありました。

 

雑談の中で、スペイン・中国系アメリカ人のこの男性Bさんが「家族に緊急のできごと」ということばを何度も使うことが、妙に私の心に引っかかりました。初対面だった彼に私は、「ご家族に緊急のできごとって、いったい何が起こったの?」と静かにたずねました。

 

彼は一呼吸ついた後、「実はね、僕の妻が、娘を出産した直後に亡くなったんだよ。二ヶ月前のできごとさ。」と、とても悲しそうな目で私と夫に説明を始めました。彼の奥様は末期がんだったそうです。亡くなるまで奥様も医師も、もちろんBさんも、この病気に気づかなかったといいます。とてもまれなできごとです。

 

私の夫は、この話を聞くことがつらくなった様子で、 "I am very sorry."と言ったきり、絶句してしまいました。どうやら夫はBさんの立場にたち、妻を亡くした夫の気持ちを想像してしまい、いたたまれなくなったようです。

 

私もこの悲劇にたいへんショックを受けました。「赤ちゃんを産んだばかりのお母さんが、すぐに光の国に行かなくてはならないなんて、こんなにも運命は残酷なんだろう。」と。一方で、私は直感的に「Bさんは私にこのことを話したいのかな。」と感じたので、彼の気持ちや考えをそのまままっすぐ心で受け取ろうと努力しました。

 

Bさんは妻への愛、妻が祖国で出産しなければならなかったいきさつ、妻の健康に彼は十分に気を配っていたこと、そして人間の生と死、死後の魂についての考え・・・。彼は妻を亡くしたショック、深い悲しみ、怒り、あきらめ、そして赤ちゃんが生まれた人生最高のしあわせ、喜びというたいへん複雑な感情をたくさんことばにして語りました。そして受け入れがたい事実だけれど、受け入れて娘とともに人生を前進しようと努力しているということも告げました。

 

最後に、Bさんは「この話は、僕の身近な家族と上司だけにしか話していないんだよね。でも君に聞いてもらってほんとうによかったよ。」と落ち着きを取り戻し、そしてじゅうたんの見積もりの仕事をきっちりとしてくださり、帰って行かれました。

 

このように初対面でも、相手の気持ちにしっかり共感できると、相手の心と自分の心がつながることができます。この出会いは一瞬で、その後、私たちはBさんに再びお会いすることはありませんでした。でも、私には忘れることのできない貴重な話を、Bさんは聞かせてくださいました。私は、こうして夫と健康でともに暮らし、家のじゅうたんをきれいにするという、日常のありふれた、しかし、同時にとてもしあわせな、とてもぜいたくな瞬間を過ごしていることに気づかされました。

 

夫はBさんの気持ちに反応しました。しかし、Bさんに共感してBさんの気持ちをそのまま受け止めたのではなく、自分自身の感情に圧倒され、ことばで自分の気持ちをBさんに返すことができませんでした。ですから、Bさんは夫には目を向けず、私にまっすぐ向かって話されたのでしょう。Bさんは、夫にはこれ以上、正直な気持ちを話したところで聞いてもらえないと察しました。

 

夫の態度は、共感ではなく、共鳴です。相手の感情にただ揺り動かされて反応している状態です。実は私も14年ほどまえは、このときの夫と全く同じ状態でした。末期がんに犯されていた友人に寄り添うことができず、彼女の気持ちを心から聞いてあげることができませんでした。私が友人の体験を聞くことがとても怖かったです。私自身の死を意識させられるからです。また、友人とのお別れの時期が迫っているかもしれないことは、とても悲しかったし、そしてなんと言ってあげていいか分からなかったのです。臨床心理学を勉強してお話を聞くトレーニングをたくさん受けていた私でしたが、情けないことに、自分の友人の気持ちも友人の気持ちを受け止めることはできませんでした。友人は、病の床で人とのつながりを求めているときに、私という友人に置き去りにされたわけですから、とてもさびしかったでしょうね。そのことは今でも悔やんでいます。

 

あれから、生と死を巡るさまざまな講習会に参加し、いろいろな種類の本(臨床心理学、スピリチュアル、ニューエイジなど)を読みあさり、生死、人生についていろいろな考えを持つ人たちに会いに行ってお話を聞き、学びました。そして、死をきちんと考えることは、一生懸命生きることにつながるので、とても大切だと今の私は考えるようになりました。そういう形で友人は私の心に今も生きています。


病で苦しむ人ばかりでなく、あなたがもし他の人と仲良くなりたいのでしたら、相手の気持ちを理解し、その気持ちに共感していることを、ことばでたくさん伝えていくことに尽きます。ことばで伝えないと、あなたの気持ちは相手の心に絶対に届きません。気持ちが通じ合わないと相手とうまくつながることはできません。これはどうやら真実のようです。

 

他の人の悲しい、つらいできごとを、あなたは変えてあげることはできないかもしれません。でも、その人とともに居いてあげることはできるかもしれません。相手の気持ちに共感することはとても素敵なことです。私と一緒に共感することを学びませんか。


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